「天は我々を見放した」新田次郎の山岳作品

「天は我々を見放した」という北大路欣也さんが演じる神田大尉の台詞で知られる「八甲田山」は、明治35年(1902年)に青森の連隊が雪中行軍の演習中に遭難して210名のうち199名が死亡したという世界の山岳史上で最大の犠牲者が出てしまった「八甲田雪中行軍遭難事件」という実際におきた事件を題材にして、山岳小説として一部に創作を加えて発表した作品です。

極限状態での組織そして人間のあり方を問いかけた作品は、日本映画の中でもまさに傑作といわれる作品となりましたが、やはり原作『八甲田山死の彷徨』があればこそです。高山気象のエキスパートの顔を持つ新田次郎さんだからこそ、気象そして山岳また山の地形に関しての執筆はとても緻密だからこそ、日本を代表する登山家とも交流があり、他の小説家が書く「山岳小説」とは比べ物にならないほどの群を抜いた輝きを放っています。

入念な取材

歴史小説家としても代表作「武田信玄」がありますが、新田次郎さんの作品はとにかく緻密な作品でも知られています。もちろん入念な取材を欠かさないことはもちろんですが、小説を執筆するにあたっては年表のように縦軸と横軸をまず設定して、人物の流れを時系列に当てはめたものを小説を書く前に先に作成してから、小説の執筆にとりかかったそうです。

新田次郎作品:山岳作品系

  • 蒼氷・・・山に挑んだ男たちを描く。富士山山頂の自然と、気象観測所の所員たちが送る厳しい生活、友情・愛そして死を描いた長編。
  • 強力伝・・・白馬岳の山頂に挑む山男を描いた作品。
  • 縦走路・・・冬の八ヶ岳が舞台で、ふたりの山男と美貌のアルピニストそして美貌のアルピニストの友人の4人の間の恋愛感情のもつれという男と女を通じて自然と人間との戦いを描いた長編。
  • 富士に死す・・・山にかける情熱と富士講。富士山の自然と信仰、そして人間は自然によって悟ることができる。という長編。
  • 孤高の人・・・連載されたのは「山と渓谷」ですが、小説として出版。登山界の常識を打ち破った登山家の加藤文太郎の生涯を描いた作品。
  • 銀嶺の人・・・女性で世界初となるマッターホルン北壁完登を成し遂げた女性がモデルとなっている作品。モデルとなった女性は今井通子さんと若山美子さんです。
  • 槍ヶ岳開山・・・槍ヶ岳を初めて登攀することに成功した修行僧の播隆を描いた長編伝記小説。
  • 八甲田山死の彷徨・・・この作品は記録的寒波に見舞われて、世界山岳史上で最大の犠牲者が出た八甲田雪中行軍遭難事件が題材。
  • 富士山頂・・・この作品は映画化されました。主演は石原裕次郎で昭和45年(1970年)に劇場公開されています。
  • 芙蓉の人・・・この作品はテレビドラマ化されました。主演は長門裕之で、富士山の山頂に観測所を設置しようと奮闘した野中到と、夫と行動をともにした妻千代子を描いています。千代子を演じたのは八千草薫。
  • 栄光の岩壁・・・モデルとされる人物がいます。18歳の時に八ヶ岳に登り遭難してしまい、凍傷のため両足先の大半を失った少年が強烈な意志で自分の足を蘇らせて未登攀の岩壁を制服していく。
  • アイガー北壁・気象遭難・・・1800メートルというとてつもなく巨大でそして垂直な壁に果敢にもチャレンジしたふたりの日本人登山家が実名登場する作品。
  • 冬山の掟・・・新田次郎さんが小説家として初期の頃に執筆した短編集で、遭難を巡って人間の本質を深くほりさげた作品。
  • 劒岳 点の記・・・日本地図に残されていた空欄の剣岳を観測するために、山岳測量にひたむきに取り組んだ男たちを描いた山岳作品。
  • 聖職の碑・・・昭和53年(1978年)に鶴田浩二主演で映画化された作品です。大正2年(1913年)に長野県の高等小学校が集団宿泊行事で行った木曽駒ケ岳の集団登山で気象遭難事故が起きた実話に基づいた作品。
  • 鷲が峰物語・・・新田次郎さんの生まれ故郷にある鷲が峰に登山したあとに、執筆された作品。
  • 風の遺産・・・ロッククライミング、夏山登山、沢登りそして雪山登山と、いろいろな登山シーンが登場する作品で。